3,000m峰の登り方(意外な注意点)

私が山サークルを主宰していた頃、「本格的に山を始めたい!」という気持ちを持った若い方々と共に3,000m峰を目指しました。早春に登山ショップ巡りを行った上でキックオフミーティングを開催。春に東京近郊の低山ハイキング。毎月1~2回のペースで定期山行を行い、登る山の高度を徐々に上げていきました。夏に富士山、そして秋には3000m級の日本アルプスに初挑戦。こんなルーチンを毎年繰り返していました。
現在の私は「登山教室」や「登り隊」の講師として当時と同じことをやっている?なんて最近改めて思っています。

多くの方が憧れる標高3,000m級の山々、3,000m峰(さんぜんメートルほう)。多くの「山の後輩」と共に目指した目標の山。みんなが成長していく過程で気付き考えたことを、今回記したいと思います。

3,000m峰とは?

日本にある山を高い順に並べてみると、頂点は富士山の3,776m。そして2位の北岳以降、穂高岳、間ノ岳、槍ヶ岳と日本アルプス のが山々が続きます。
標高3,000m以上の山は日本に21座あります。この21座を優先的に狙う「3,000m峰ハンター」の方もいらっしゃるかもしれません。厳密な意味での3,000m峰はこれら21座ですが、一般には標高3,000mに満たない山でも3,000m峰に見なされることが多いです。例えば劔岳や甲斐駒ヶ岳など。

標高が「だいたい3,000m」≒「3,000m峰」

日本における標高3,000m付近の山は、いくつかの共通点があります。

雪と岩の殿堂 剱岳。急峻な岩稜帯が続き危険な個所も多い。標高は3,000mに1m満たない2,999m。

日本の山を高い順に百座リストアップしたのが「日本百高山」。百名山ハントとは別に、百高山ハントをされる方もいらっしゃるかと思います。

日本百高山リスト。ジャンダルムといった本峰の一部として数えられる峰や頭は百高山に数えていない。

日本百高山の山のほとんどが日本アルプスにあり、それ以外は南八ヶ岳(赤岳、横岳、阿弥陀岳、権現岳)に。残りは独立峰の火山(富士山、御嶽山、白山)です。

3,000峰の共通点

これら百高山を眺めてみると、低山とは違う以下の共通点が浮かんできます。

①頂上は森林限界 を超えていること
②頂上が山深く、日帰りでの登頂・下山が困難な山が多いこと
③冬期は積雪や悪天候・強風が多く、登山適期が限られていること
などが挙げられます。

今回の記事では厳密な3,000m超の21座に限定はせず、北・中央・南アルプス+八ヶ岳+高い単独峰全般の山に共通して言える注意点を説明したいと思います。

①森林限界を超えて続く登山道と山頂

頂上を目指して歩いていくと、高度が高まるごとに樹木は低くなります。登山口はスギやヒノキといった人工の樹林帯からスタートし、やがて植林や伐採が困難な程の高度まで登ればその土地に昔から生えている広葉樹林に植生が変わっていくことが多いです。ますます高度を上げていけば、ブナやナラの合間にダケカンバやナナカマドが目立ち始めます。雪深い土地であれば樹木の幹もいびつに曲がっていたりと、いよいよ森林限界が近いのだと感じられます。低くまばらになっていくダケカンバが消えハイマツ帯に入れ替わる辺り、この境界線を森林限界(Timberline)と言います。森林限界より高い高山帯(Timberland)は低山とは異なる環境があります。

澄んだ空気と限りなく青い空。天気が良ければ天国のような光景を味わうことができる別世界。しかし天気が悪くなれば厳しい登山を強いられることになります。樹林帯には悪天候時の雨や風を和らげてくれる役目がありますが、森林限界以降では樹林帯がありません。登山者はあらゆる自然現象と「ダイレクト」に戦い、その日の目的地に着くまで自分自身を守る必要が出てきます。

天気が崩れれば、稜線上では直進することも難しい程の強風にさらされることもあります。また雨が降れば、雨粒は上から降ってくるとは限りません。左右だったり下からだったり、あらゆる方向から雨粒がレインウェアを叩きつけます。ジャケットとパンツの隙間、フードと頭の隙間、袖口、ゲイターなど雨具の隙間を狙うかのように、決して濡らしてはいけないインナーウェアを濡しにかかります。下界の雨しか経験したことのない人にとって、3,000m峰での風雨は全く別物。人の命を奪いに来る怪物と戦うようなものです。インナーウェアが濡れてしまえば体温が急激に下がります。風が強ければ低体温症に発展することも。

逆に天気が雲一つないカンカン照りであれば。木陰のない3,000m峰の稜線上は強烈な日差しと紫外線に晒され続けます。条件によってはやけどに近い日焼けをしたり、サングラスを掛けていなければその晩涙が止まらない程目が痛くなったりも。熱中症のリスクもあります。

森林限界を超える山では、これら自然の脅威から自らの身体を守る必要があります。登山用のレインウェア、防寒具、サングラス、日焼け止めなどのウェア・装備を用意するだけでなく、それらの機能を引き出せるよう何度も練習・リハーサルを繰り返しておく必要があります。高山に比べ安全で、多少の失敗も許される低山で、繰り返し練習を重ね、装備を十分に使いこなせるようにしておく必要があります。

高山に登る前に低山に繰り返し登っておく行為。これは体力をつけるという目的だけではありません。低山という「比較的安全」な場所で、自身の生命を守る装備を使いこなすトレーニング(反復練習)を行う目的もあるのです。

「山の天気は変わりやすい」と言われるように、標高が上がれば上がるほど変化も急です。自分たちでは手に負えないような天候悪化にも備え、計画段階での試行錯誤も必要です。安全な山選び。エスケープルートの確保。山小屋等の避難先のあるコース選び等、高山帯の土地勘と登山計画力も必要になります。

穂高岳山頂付近の稜線の様子。森林限界を超えた場所に樹木は育たず、登山者は天気の影響をダイレクトに受けてしまう

②日帰り困難な山。宿泊を伴う山

ハイキング・登山を始めたばかりの頃は日帰り中心。朝家を出て登山口に到着。ストレッチをして靴ひもを締め直した後、頂上へ向かって出発。何事もなければ昼過ぎ、遅くとも15:00には下山。これが登山の基本。

ところが3,000m峰となればそう簡単に日帰りで登頂して帰宅出来る山はありません。初級向けの山を登りつくせば、行程の中に山小屋泊やテント泊を組み入れる必要がでてきます。宿泊を伴う登山は日帰り登山と異なります。この点が2つ目の低山との違いとなります。

宿泊を伴う登山では、ザックに詰め込む重量が増えるだけでなく、二日以上連続で山を歩き続けられる体力が必要になってきます。

登山をした翌日は朝起きれない、筋肉痛がひどい、一日中だるい、なんて人はいませんか?

日帰り登山をすると翌日に不具合が出る方もいらっしゃいます。行動が二日連続、三日連続となる日本アルプス登山。山に入っている間は気持ちが高揚して疲れも痛みもなぜか感じず、興奮状態のまま歩き続ける方もいらっしゃいます。下山後であれば翌日目覚めるのもつらいはずなのに、山小屋では夜明け前に目が覚めたり、普段ならまだ寝ている時間に朝食を食べたり、前日に酷使した身体から発するはずの筋肉痛も感じることなく、2日目もたっぷり登山を満喫する。きっと身体は悲鳴を上げていると思います。

基礎的な体力が不足していれば、山という非日常が与えてくれる「覚醒」状態もそう長くは続きません。朝早く行動を開始し始め昼を過ぎる頃、疲労はピークにさしかかり、スピードダウン。足がつったり、高山病の症状が出てきたり、下山路では膝に不調をきたしたり。予定通りのコースタイムも遅れが出始めることも。

涸沢ヒュッテ。コロナ渦の山小屋は予約制。ソーシャルディスタンスの確保を始め感染症防止対策に神経を尖らせている

初めての3,000m峰をチャレンジする前には、低い山で繰り返し練習を重ねる。技術を高め体力をつける。ガイドが未経験者を高山に連れていく際は、「歩きこみ」という言葉の通り、低い山でたくさんトレーニングを積んでもらうようにしています。

さらには「睡眠スキル」も重要。多くのお客様を連れて山小屋泊も行いますが、「ほとんど眠れなかった」というお客様が時々いらっしゃいます。寝慣れない環境で眠るというのは大変な事です。普段と違う枕・布団で寝る。大広間で大勢の人たちと一緒に寝る。一晩中大きないびき。夜間にトイレに行く人が何人も。まだ深夜なのに起きだして出発の準備を進める人・・・「睡眠スキル」も鍛えておく必要があります。
耳栓・アイマスクの使用、早めの就寝、適量のアルコール摂取等、これも自宅・平地や低山などで繰り返し練習を重ね技術の研鑽をしておくとよいでしょう。

耳栓はいびきや他人の気配に対してとても有効な解決策ではありますが、練習不足ではほとんど効果が現れません。そのためその効果も知らずにあきらめてしまう人も多いです。耳栓の練習は自宅でもできる簡単な事なので日頃からの鍛錬をお勧めします。
①数あるタイプの耳栓の中から自分に合った耳栓を見つけ出す
②使用法通りに耳に詰め、周囲の音を遮断するコツを見出し、毎回再現できるようにする
③耳栓が就寝中、寝返りなどで落ちない事。耳栓の効果が起床時まで続くこと
耳栓を使ったことがない人が、初めて山小屋で開封して使ってみても、あまり上手くいくことはありません。過去に山小屋で眠れなかった、または眠れる自信のない方は、日頃から練習を心がけてみてください。

③登山適期が限られ登山者が集中するので登山環境が悪くなる

関東地方の場合、1,000m以下の低山であれば、余程のドカ雪が降らない限り、年がら年中登山が可能です。しかし3,000m峰ともなれば冬期は厳しい気候と深い積雪により、登山はおろか登山口までアプローチすることすら難しくなってきます。

例えば北アルプス。燕岳なら有明温泉。穂高岳・槍ヶ岳なら上高地と、夏山シーズンは登山基地まで車やバス・タクシーなどによる交通の手段が確保されています。一方積雪期となると麓から道路が通行止めに。長い林道やトンネルなどに+数時間のアプローチ時間が加わります。

3,000m峰の登山基地までのアプローチは、除雪が進むゴールデンウイーク手前の4月頃に開山し、麓に雪が積もる晩秋11月頃に閉山されることが多いです。開山中は登山基地までは夏季と同様な交通機関にてアプローチが可能となります。
しかし、開山直後や閉山直前は山頂付近は厚い積雪があり、ほとんど冬山状態です。安全に歩行するにはアイゼン・ピッケル・防寒具等の装備が必要で、それら雪山装備を十分に使いこなせる技術・経験が伴っている必要があります。

冬山・雪山経験のない人にとって、3,000m峰の登山適期は、梅雨明け後の7月中下旬から紅葉期の9月中旬の2ケ月程度だけといえるでしょう。この期間には台風の上陸も多く、好天となる週末・連休はそう多くありません。お盆やシルバーウィークなど、お仕事を休みやすい連休に好天が重なれば、驚くほどの登山客が3,000m峰に集中することになります。

例えば関東圏に住む人が穂高岳登山を検討する場合
◆自宅から登山基地間の交通の混雑
・JR特急 あずさ、高速バス さわやか信州号などの予約・チケット確保困難
・中央自動車道や下道 国道158号線の渋滞、沢渡駐車場の満車
◆登山基地(上高地バスターミナル)の混雑
・トイレ、手荷物預かり、登山計画書記入時の混雑・行列
・途中の休憩ポイントでのトイレ・レジの混雑
◆登山道の混雑
・細い登山道でのすれ違い・追い越し時の待ち時間
・休憩場所の確保困難(明神、徳澤、横尾、本谷橋)
◆ベースキャンプ地の混雑
・涸沢ヒュッテ・涸沢小屋、テント場の予約確保困難
・雨天時の乾燥室の場所確保困難
・早朝出発時の涸沢のトイレ渋滞(1時間以上並ぶことも)
◆ルート上の難所の混雑・渋滞
・ザイテングラートの鎖場、穂高岳山荘付近のはしごの渋滞
・奥穂高岳山頂での記念撮影渋滞
◆下山時
・登山道、昼食、トイレ混雑
・上高地バスターミナルからのバス乗車渋滞
◆帰路の食事・入浴・交通機関

考えられるだけでもこれらの混雑・渋滞を考慮して計画を立てなければなりません。
「私は休憩時間を入れても標準コースタイム通りに歩ける」と体力的に自信があっても、登山ルートが物理的に混んでいてはコースタイムも稼ぐことができません。これら登山客が集中する期間は、平時の計画では計画通りに物事が進まないことが多いです。自分が建てた計画の履行を優先するあまり、自分の体力を削ったり、同行者に無理を強いたりというのは、良策とは言えません。季節特有の混雑を考慮した余裕のある計画を立てるか、それとも出発日を変えるか、それとも登る山を変えるか。季節要因も登山計画に反映させる。これが3つ目のポイントとなります。

3,000m峰を登るには、登山技術だけでなく、無理のない旅程を組める技術も必要になります。旅程管理が上手くいかないと、夕暮れ後ヘッドライトをつけて山小屋に到着して小屋番に叱られたり、上高地のバスに大行列の末の乗車となったり、帰宅が深夜となり翌日の仕事に影響したり。これまで多くの登山者の失敗例を見たり聞いたりしていると、登山の教科書には載っていないような技術も必要だと感じています。

上高地バスターミナルまでの大行列。沢渡行最後尾に立つバス会社の人によればバス乗車迄「3時間くらいかかる」とのこと

初めての3,000m峰登山

ここまでお読みいただいた皆様には恐縮ですが、3,000m峰を登る為のコツ、というのは思い浮かばず、結局は低山を中心に経験し・学んだ内容を高山帯でも確実に再現すること、というのが答えでした。

低山であれば多少の失敗も許されることも多いのですが、高山になればなるほど失敗を犯せばシビアにしっぺ返しを食らうことになります。天候が悪い日ほどよりシビアになります。命にかかわることさえ。

これまで努力を積み、成長に実感があれば、先ずは下記の条件で試してみてはいかがでしょう?

・比較的容易な山を選ぶ
・天気の良い日に登る
・信頼できるリーダーと共に登る

比較的容易な3,000m峰

中央アルプスの木曽駒ヶ岳、北アルプス乗鞍岳、立山、八ヶ岳の硫黄岳・天狗岳。初めてであればこのあたりが技術的にも体力的にも良いかと思います。麓の町に前泊すれば日帰りも可能*です。
*天気が良ければです

これらを登った後に北アルプス 唐松岳、燕岳など、山小屋泊を兼ねてレベルアップはいかがでしょう。

天気の良い日にアタック

山域全体が高気圧に覆われるタイミングがベストです。出発から下山まで降水確率が0%に近いほど、また山頂付近の風が無風に近いほど、登山は容易になります。

ただ予報が良ければその週末は多くの登山客が繰り出すことにもなります。宿泊を伴うのであればなんとか休みをひねり出し、平日登山をお試しいただければと思います。

信頼できるリーダー

山仲間に信頼できるリーダーがいればそれは本当に幸運です。その方に従い努力すれば、短い期間で安全に憧れの3,000m峰の頂上に立つことでしょう。

ただそういったリーダーに巡り合える人はなかなか少ないです。もし巡り合えなかったら・・・
低山への登山により時間を掛け、多くの経験を得ながら自分の力で実力を高めていってください。時にプロのガイドと共に山を歩く、というのも早道になるかもしれません。

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