これって高山病?~高山病の簡単な判定方法~富士山など3000m超の山に登る人に知ってほしい事

3000mを超える高地で高山病に苦しむ方は多くいらっしゃいます。富士山ツアーでガイドをすると、大体2割のお客様が高山病の症状を訴え、内1割のお客様はかなり苦しまれていらっしゃいます。
頭痛、吐き気、食欲不振、不眠などが顕著な症状です。高山病は、軽度なうちに高度を下げれば何事もなかったように回復するのが特長でもあります。しかし登山ツアーともなるとお一人だけ下山する、というのもなかなか難しく、具合が悪くなった方を症状が軽いうちに付近の山小屋で待機いただく、といった対応になることが多くなります。

より高い山を目指すにあたり、避けて通れないのは高山病。人によっては標高2,500mを超えたあたりから症状を訴える方も。
また高山病は0か1かのはっきりしたものではなく、気づかない内にじわじわと症状が現れ、やがて自覚するに至ります。

この夏富士山や日本アルプスを目指される方も多いかと思います。高山病がどのようなものか。高山病の判定方法。高山病を予防する一般的な方法を説明してまいります。

※当記事での「高山病」とは「急性高山病(AMS)」を指します。より重篤な「高地脳浮腫(HACE)」と「高地肺水腫(HAPE)」は含みません。

高山病の症状

深夜の八合目付近
夜の帳も下り、夜明けまでの長い時間。八合目の山小屋前では弾丸登山者がひと時の休息

一般に高山病は登山開始後6時間から10時間で発症し、24時間から48時間で軽快する。また 1日で2500mまで登高した場合 約20%の人が、3000mでは約40%がAMSを発症すると言われています。

高山病の主な症状は下記になります。

◆頭痛
普段頭痛を感じることの無い方も、標高を上げるごとに頭痛の症状が現れます。初期の頃は「頭が重い」と感じ始め、高度を上げ症状が重くなるごとに「痛い」感覚に変化します。やがて、頭が「ガンガン」するといった症状に変化していきます。

◆吐き気(悪心・嘔吐)
「今日は調子が悪い」から始まり「気分が悪い」、そして「気持ち悪い」に発展します。この症状が続くとやがて吐き気を催し、最終的には嘔吐します。吐かれる姿を見ると、まるでお酒に悪酔いされたかのように胃の中のものを戻されていらっしゃいます。

◆食欲不振
頭痛や吐き気を訴えるお客様の多くは食事ものどを通りません。山小屋で出された食事もほとんど口を付けず。そしてしばらくすると戻されたりします。就寝前も、就寝中も続く方もいらっしゃいます。

◆睡眠障害
山小屋での睡眠環境は厳しいです。特にお盆の富士山や錦秋の北アルプスの山小屋はどこも超満員。他人と肩を触れながら寝るということに馴れていない方にとっては寝ることも困難な環境ですが、高山病の症状が加わればほとんど寝ることもできません。不眠の原因を特定することは難しいですが、高山病の症状が出ている方はたいてい熟睡することはできていないようです。

疲労、めまいに加え、上記が高山病の主な症状です。これらが発症すれば、登山者が本来持つパフォーマンスを出すことは難しく、登山自体がより困難なものになります。

高山病の原因

医学的な解説はここでは避けますが、一般に言われている高山病の原因は「体内の酸素量の欠乏」にあると言われています。

また酸素量の欠乏には更なる要因があり

・登山者の体質
・急激な高度上昇
・呼吸法
・摂取水分量
・登山前や山小屋での寝不足などによる体調不良
・アルコールの摂取

などが主な原因とされています。

・登山者の体質
元々高地に弱い方がいらっしゃいます。酸素の取り込む力が元々弱かったり、様々な要因があります。登山技術の高い方でも標高の高い山を苦手とする方も多いです。高地に慣れるまでの登山初日やその翌日は毎回苦しんでいる、と話される方もいます。

・急激な高度上昇
高山病にいつも悩まされる方も、少しずつ、ゆっくり高度を上げれば高山病の発症を抑えたり、症状を緩和することもできます。その限界を超えて急激に高度を上げると、高山病が発症します。

・呼吸法
肺を通じて体内に酸素を取り込む量が不足すると発症しやすくなります。日常生活の浅い呼吸法を登山中も続けると、いずれは酸素不足に陥ります。。

・摂取水分量
行動中の水分補給量が少ない方程、高山病にかかりやすいと言われています。また、高山病が発症した場合、軽度な症状であれば水分補給が効果的ともいわれています。高山では脱水症状になりやすく、血液の循環が悪化により酸素が体中にいきわたらないといことが影響します。

・寝不足
高山病に限らず、睡眠不足は様々な不調を招き、登山者が本来持つ力を引き出せません。高山病の発症にも影響を与えます。

・アルコールの摂取
これも登山者の体質に大きくかかわるところです。一般にアルコールは高山病を誘発するものとされています。

高地でのパルスオキシメーターの値
標高5,000mを超える高地では血中酸素濃度も低い値に。
急激に標高を上げることは身体に大きな負担を与える。

高山病の判定

自分が高山病かどうかの判定。登山者としてはとても気になることと思います。上記の写真にある パルスオキシメーターという機械を使うと数十秒で計測してくれます。ただ、誰もが持っている機械ではないことと、数値を見ただけでは高山病かどうかの判断をすることも困難です。

そこで、今回紹介したいのが、以下の資料です。

国際山岳連合医療部会(UIAA MedCom)公認基準 (その 2) 急性高山病、高所肺水腫、高所脳浮腫の現場での応急処置
—医師、関心のある一般人およびトレッキングや遠征担当者向けに—

このリンクには登山者として知っておきたい知識が平易に解説されています。特にページ後半の「6 付記」レイクルーズスコア 急性高山病(AMS)の診断/重症度判定表は有用です。高山病が疑われる同行者を観察し、質問をしたり症状を観察することで、AMS(急性高山病)かどうかを簡易的に判断できます。

リンク先の情報を元に登山ガイド.netにて再作成

①頭痛と他の項目1点以上の場合「AMSの可能性あり」
②頭痛を含む各スコアの合計3点以上、あるいは頭痛の有無にかかわらず各項目スコアの合計が4点以上の場合「AMS」と判定する
③日帰り登山の場合は睡眠障害は評価しなくて良い

また重症度としては
軽症:3~5点
中等症:6~9点
重症:10~12点

とされています。

※上記はあくまでAMS(急性高山病)の判断の目安です。より重症な脳浮腫、肺水腫の判断はできません。

ツアー中、たびたびお世話になった富士山八合目富士吉田救護所内にもこの表が貼られていました。

富士山八合目富士吉田救護所に貼られていた表

仲間が高山病に陥ったら

無理はしないことです。できれば症状が軽いうちに下山をすることです。症状が軽い内なら高度を下げればケロっと治ってしまいます。 重症化してからでは手遅れの場合もあります。

私のガイドするツアーでは軽い症状の内にその場より低い山小屋でお待ちいただいています。待っている間も辛いと思いますが、それ以上頂上に近づいていれば更に苦しくなることは間違いありません。

症状が軽い段階であれば、高度の上昇を止めることを前提に水分補給が良いとされています。
症状が重ければ直ちに高度を下げることです。
※MSD社資料より

特に初めての富士登山、しかも初めての3000mの高度となれば、登山者自身が高山病に気づかなかったり、単なる体調不良と思いがちです。リーダーはもとより、登山者本人も高山病の症状について事前に知識を得、慎重に登っていただきたいと思います。

下山時の一コマ。高山病で苦しんだ方も標高を下げるごとに元気に。ガイドとしてホッとする瞬間。

高山病の予防法

・呼吸法を変える
・水分を十分に採る
・急激に高度を上げない
・十分な睡眠をとる
・アルコールは控える

順不同ではありますが、上記を守ることで相応の効果はあります。

・呼吸法を変える
十分に息を吐きだし、ゆっくり十分に息を吸う。ただこのような特殊な呼吸法は一朝一夕には身に付きません。「他の人から気づかれるくらい」に大げさに深い呼吸を登山中、終始続けるよう心掛けてみてください。

・水分を十分に採る
1泊2日の富士登山を例にすれば、日中の行動中は最低でも1リットルの飲料を、できれば2リットル以上飲む事を勧めています。トイレの心配よりも高山病予防を優先していただきたく思います。

・急激に高度を上げない
これも富士山の例になりますが、 弾丸登山は高山病を発症する人にとっては厳しいものです。途中の山小屋に宿泊することで軽度の段階で高山病の発症を発見でき、待機・下山などの判断がしやすくなります。山小屋で宿泊し、AMSの症状が収まらなければ、登頂は諦めることを検討ください。
また、睡眠時は呼吸が浅くなることから、起床後には症状が悪化していることもあります。

・十分な睡眠をとる
登山前日はなにかと慌ただしく、また翌日の期待が高じて十分な睡眠をとることが難しいと思います。なるべく、少しでも長い時間、良質な睡眠をとるよう心掛けてください。山小屋で宿泊する際は、耳栓を使用するなどして、ここでも「少しでも」長い時間、良質な睡眠を取られてください。

・アルコールは控える
体質にもよりますが、飲酒は高山病に影響します。前夜から下山までは飲酒は控えることをお勧めします。ルートにもよりますが、富士山の山小屋では酒類の販売をしていない小屋も多くあります。

【コラム】ヒマラヤ・ヨーロッパ遠征時のこと

ヒマラヤ6000m峰からの景色
ヒマラヤ6,189mからの景色

私自身、高地には強い体質で、これまでAMSの症状に陥ったことはありません。上記にパルスオキシメーターの写真を挿入しましたが、 SpO2(血中酸素飽和度)の値は78を指した時の写真です。

SpO2は一般に96~99%が正常値とされ、90%を切ると「呼吸不全」の可能性が疑われます。78という数値はヒマラヤ遠征の際、標高5,000mのベースキャンプでの数値です。その翌日1日で1,000mを超える標高を登り無事登頂、下山を果たしました。
富士登山でふらふらになるお客様の数値を計測しても80%台後半であることが多く、どんなに苦しまれるお客様でも70%台の方は見たことがありません。

5,000mの高地まで、いきなり数日で登り詰めたわけではありません。10日以上の期間を経て、また途中数日間は高度を上げずに丸一日何もしない高度順応日を設けながら、計画的に地道に高度を稼ぎました。

リーダーの指示に従い毎日3リットルの水分を日課とし、飲みたくもないのに水分(主に紅茶)を朝から晩まで飲み続けました。その分トイレも相当の数です。呼吸も変えました。呼吸はゆっくり深く吐き、深く吸う。数日かけて深い呼吸を習慣化しました。

酸素の薄い地では、急激な動きをすると体内の酸素量が減ることが実感できます。仲間との会話に熱中し、息継ぎが減るなど呼吸のリズムが狂うと水の中で溺れた時の様に突然息苦しくなったりもします。 そんな日を二週間近く続けたことで頭痛も吐き気もなく食欲旺盛な状態で6,000m峰に立つことができました。尚、大好きなお酒も遠征中は完全に断ちました。

その後もヨーロッパアルプスの4,000m超の峰を6座登りましたが、高山病とは無縁の状態です。体質が最も大きな要素と思いますが、高地にいる間の呼吸法、水分摂取量、睡眠への執着は平地とは全く異なるものです。

ガイドとしてお客様と同行し、一番苦しまれる姿を目にするのが富士山です。
今回の記事が少しでも皆様のお役に立ち、富士山からの絶景を目にしていただけることを応援いたします(^^)

夜明け前の空と眼下の富士吉田の夜景

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