妙義山 星穴岳~奇妙な山容とわかりづらいルートで空中懸垂。バリエーションルート2

日本アルプスや八ヶ岳といった高山帯のバリエーションルートに通われている方からすると、星穴岳はかなり「違和感」を感じる山。

星穴岳と上州の山々。そして最後列には浅間山が噴煙を撒く。

星穴岳は妙義山の中の一つのピーク。その星穴岳というピークも多くのピークからなる山群。山頂を踏むまでにはドラマチックなルートを走破する必要があります。また山頂を踏んでしまえば自前の足で下山することは困難。持参したロープを用いて懸垂下降で降りることに。
またその懸垂下降は「空中懸垂」というスタイル。ロープワークを学んできた人にとっては一つの「ご褒美」ともいえる空中懸垂のフィナーレを味わえる山はそうありません。

今回紹介するおすすめのバリエーションルートは星穴岳。

ここで一つ注意点。初級・中級・上級・・・という区分けが登山ガイドブックにはありますが、この星穴岳は何とも表現が難しい山です。その理由も説明しますが、くれぐれも無理な登山だけはしませんように。

星穴岳を難しくする要素

①ルートファインディング
②高低差のある切れ落ちたナイフリッジや不安定なトラバースを強いられる
③三点支持(三点確保)が必須の不安定な岩場の登攀
④山小屋・トイレといった避難・補給ポイントが無いルート
⑤トラブル発生時の対応
⑥懸垂下降や支点構築・スタカットビレイといったロープワーク

バリエーションルート踏破に必要な要素が「凝縮されている」山と言えるでしょう。

出典:ヤマレコ

星穴岳攻略を楽しくする要素

上記難しくする要素と同じです。

①ルートファインディング
詳しいガイドブックも少なく、Web上にアップされた個人の山行ブログを元に情報を収集し、山行計画を立て、現地ではこれまでの山行経験を総動員してルートを探し出します。途中、道標もほとんどなく、「立ち入り禁止」のロープをくぐった後はルート取りはある意味自由です。

②高低差のある切れ落ちたナイフリッジや不安定なトラバースを強いられる
足を踏み外せば命に係わる場所が幾つもあります。その時どのような対応をすればよいのかは、リーダーやメンバーの力量により異なります。危険地帯の通過時は持参したロープを積極的に用いて、安全確保を図ってください。スタカットビレイやフィックスロープ構築などで、万が一の墜落・滑落時のダメージを最小限にマネージしてください。

③三点支持(三点確保)が必須の不安定な岩場の登攀
クライミングジムと全く異なります。ホールドもポロっととれる堆積岩。フラットなコンパネのような壁ではない自然が生み出した壁は、ついついロープを手放してしまうような危険に出くわすこともあるかと思います。

④山小屋・トイレといった避難・補給ポイントが無いルート
ルーファイ能力や普段の歩くスピードによって山中の滞在時間は異なります。また季節や天候によって水分摂取量も異なります。パフォーマンス落とさず、かつ水分欠乏にならない最適な量を持参する必要があります。
当然、花摘み・雉打ちスキルは必須となります。

⑤トラブル発生時の対応
一般ルートとは異なり様々なトラブルが発生すると思います。それらを全てパーティー内で解決し、無事下山できることが、入山条件でしょう。毎年多くの遭難者、死者が発生する山域です。ノリで登れる山ではありません。

⑥懸垂下降や支点構築・スタカットビレイといったロープワーク
安全性やスピードを考えても、ロープは必須のルートです。クライミングジムでの練習と大きな違いは多々あります。少なくとも下界で十分なロープワークスキルを身に着け、そして外岩での経験を積んで、満を持して空中懸垂を楽しんでいただければと思います。

撮影する人も十分注意が必要。セルフビレイを確保してから空中懸垂者の撮影を。

ルート概要

登山中に撮影した特徴的な場面を掲載します。

不明瞭な踏み跡

季節にもよりますが、踏み跡は不明瞭。岩稜帯と異なり雨で洗い流されたり風で落ち葉が堆積するとバリエーションルートに馴れた人もルートミスすることも多々あり。バリエーションルートの鉄則、「迷ったと思ったら迷わず引き返す」

樹木や木の根を利用して体力の浪費を防いで歩く

木の枝が張り巡らされている場所も。目に枝が刺さらないよう落ち着いてルートを見極めて。

虎ロープで靴られたフィックスロープ

各所にフィックスロープが残置されている箇所もありますが、できれば体重を掛けずに通過するか、面倒でも持参したロープを用いましょう。

命を預けるには覚束なし

一般ルートと異なり、残置物は全ての登山者の安全を確保するために残されている訳ではありません。

懸垂下降ポイント

懸垂下降を必要とする場所にはペツルハンガーが打ち込まれている場所もあります。ただ、これも時間の経過とともに劣化していきます。体重(命)を預ける前に十分な検証は必須。確信が持てなければ登山の中断・引き返しなど、冷静な判断を。

インドアジムでは絶対に味わえない泥壁懸垂も

どの方向に下りていくかも判断が必要。何mのロープなのかによってもルート取りは異なります。

射抜き穴への空中懸垂支点

残置スリング・カラビナの劣化も十分に検証が必要。

空中懸垂への第一歩

力量が異なるメンバーがいれば、どの順番で下降するかも十分りリハーサルを。経験不足の人を残置しないように。又は経験不足の人をバックアップもセットせずに先に下ろさないように。

ふわり

短い時間ではありますが、とっても充実したひと時を味わうことができます。

必要な登山レベル

登山(縦走)で言えば「上級」以上はマスト。特に上記の「星穴岳を難しくする要素」の章で記した内容は登山者本人だけでなく、同行するメンバーの安全を保証するレベルをリーダーは有する必要があります。

体力レベルでも上級レベルといえます。補給箇所がない。また50-60mのロープをパーティーで2本。ハーネス・ガチャ類を担いで7~8時間の山行を集中力を切らさず歩き切るにはパーティー全体に相応の体力が求められます。

クライミング(登攀)レベルは、上級の必要はありません。例えば二子山中央稜が「初級」とされている現状をみれば、岩場でのクライミングレベルは初級以下となります。しかし、このクライミングレベルを文字だけで表現することは難しいです。
西穂奥穂縦走(ジャンダルム)よりは登攀レベルは上、と考えておく必要があります。
またクライミングゲレンデと異なり中間支点の無いスラブを十数mフリーソロで登らなければならないことを考えると、「フリークライミング」にはない登攀能力と度胸も必要となります。

今回のおすすめの山、星穴岳の標高は1000m程度と、アルプスや八ヶ岳を指向する登山者にとっては異質に感じる山かもしれません。東京発であれば日帰りも可能で様々なバリエーションルートの要素を存分に経験できる不思議で「楽しい山」です。
今後、星穴岳を目指すにあたって必要な技術を記事にしていきたいと思います。

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