【虫よけ】夏の虫対策(アブ・蚊・ヤマビル)【ディートとイカリジンの違い】
梅雨が明け、夏山シーズン開幕。と共に目立ってくるのが虫の害。
特にアブの攻撃は悪質で、噛まれてしまうと大きく腫れ、見るも無残な姿になることも。
今回、アブ(虻)や蚊、そしてヤマビル(山蛭)にも有効とされる、一般的な虫よけスプレーについて解説をします。
取材にあたり、フマキラーお客様相談窓口から効能や注意点を詳しく教えていただけましたので、フマキラー社の商品を例に説明します。
虫よけスプレーは虫を殺さない?
ドラッグストアなどで売られる虫よけスプレーにはイカリジンやディートが配合されている。これら薬剤の成分は「忌避剤」。「人の血を吸う虫の感覚をかく乱させて、血を吸わせない」のが忌避剤の効果。いわゆる殺虫剤とは異なるので、虫にスプレーをふりかけても虫は死なないことは知っておきたい。
例えばフマキラー社の「天使のスキンベープミストプレミアム」はイカリジンが、「スキンベープミスト」にはディートが配合されており、これを正しく塗ることで、アブや蚊、ヤマビルなどの吸血害虫の攻撃から守ることができる。
ディートとイカリジンの違い
登山者の天敵ともいえる吸血害虫はアブ、蚊、ヤマビルだろう。発生頻度とその被害をかけ合わせれば、この3種こそが注意をすべき虫。
ディートもイカリジンもどちらも、これらの虫から身を守ることができるのはありがたい。
イカリジン | ディート | |
フマキラー社の商品 | 天使のスキンベープミストプレミアム (動物柄のボトル) イカリジン15%配合 | スキンベープミスト (青緑のボトル) ディート10%配合 |
最大効果 | 8時間 | 5~6時間 |
年齢制限 | 年齢制限なし | 12歳未満にあり (詳しくは商品裏面参照) |
デメリット | ポリウレタン系の化学繊維への影響あり | ポリウレタン他、化学繊維全般への影響あり |
効果のある害虫 | 蚊、ブユ、アブ、マダニ、イエダニ、トコジラミ、ヤマビル | 蚊、マダニ、ノミ、ブユ、ヤマビル、イエダニ、サシバエ、トコジラミ、アブ |
正しい塗り方と使用量
「肌にたっぷり塗る」ことが必要だ。
これは個人差があると思われるので、先ずはメーカーの動画を観てみよう。
動画の26秒目あたりの子供の足を観れば、「たっぷり」塗っていることが分かると思う。服の上から「シュッシュ」だけでは効果は望めないと思われる。
効果のある時間
天使のスキンベープミストプレミアムは8時間とボトルに記載。スキンベープミストには時間が見当たらなかったため相談窓口に尋ねたところ「5~6時間」との回答。
但し、登山の様に汗をかく場面での使用の場合は、塗り直しが必要とのこと。ウォータープルーフの日焼け止めとは異なり、ミストが汗で流れてしまえば都度塗り直しが必要だ。
尚、一日の塗り直し回数に制限があるか?との質問には、「どちらの商品も大人は制限なく塗り直しが可能」だそうだ。
吸血虫の密度と汗の量によりけりだが、効果が薄れてきたと実感したら、やられる前に速やかに塗り直しが必要であろう。
デメリット:ストレッチ素材の登山服がダメになる?
相談窓口に聞いたところ、天使のスキンベープミストプレミアム(イカリジン)はポリウレタンへの悪影響があり、スキンベープミスト(ディート)はポリウレタンに限らず化学繊維全体への悪影響があるとのこと。尚、綿のような自然素材であれば悪影響はないとも。
ポリウレタンと言えば登山用品の防水素材や登山服のストレッチ素材として多く活用されている。また腕時計のベルトやサンダル、登山靴の一部やソールとの接着剤にも使用されている。
どんな悪影響があるかと尋ねると、「塗った場所が溶けてべたつきが出たり、繊維が薄くなったり最悪穴が開くことも」とのこと。
高価な登山用品や登山服が壊れてしまうのは悲しいこと。そこで・・・
という方法で、デメリットをより小さくしていくしかないようだ。
登山者としての虫よけ剤の選び方
大人の登山者であればディートもイカリジンもどちらでもよさそうだ。それはにっくきアブ・蚊・ヤマビル、悪の三害虫に効くからだ。
50年以上の歴史のあるディートを配合するスキンベープミストは人体用虫よけ剤としてNo.1のシェアと聞けば安心感がある。
一方イカリジンを配合する天使のスキンベープミストプレミアムは、後発ながらも12歳未満の子供に対しての使用量制限もないので、小さなお子さんのいる家庭では、1日の使用回数を気にすることなく親子で共用することもできる。
私はしばらく2つを使い分け、メリットデメリットを観察していきたいと思う。
番外編:真夏のアブ対策(南八ヶ岳編)
2022年7月中旬。登山ツアーで17名のお客様と共に硫黄岳を登った。前日朝、桜平より入山し、根石岳を登頂後オーレン小屋に宿泊。翌朝硫黄岳を登り美濃戸口へ下山する縦走コースであった。
往路のタクシー車内で。
運転手「今年はアブが大発生している」
まじか・・・。これまで夏の南八ヶ岳は夏の丹沢と同じくらい、立ち入ることをためらってきた(笑)
それはもう十数年前のトラウマ、「アブの大群」に追い回されたことにある。
「0から始める登山教室」という講座はもう第11回目。昨年秋から登山を始めたお客様が毎月レベルを上げた登山ツアーに参加し、第12回目の最終回には北アルプス燕岳を登る、というシリーズ物のツアー。参加されるお客様も、南八ヶ岳の登山は初めてという方ばかり。
なので、「アブの大群」の怖さを知る方はきっといない。タクシー運転手の漏らした言葉の意味も、どれ程の怖さなのかを正しく実感する人はいなかったのではないだろうか。
ツアー2日目、霧のかかる硫黄岳山頂。ミスティーな天気は真夏の登山に悪くない。頂上滞在中時々霧が切れては見える爆裂火口にお客様も満足。
あとは温泉まで導いてくれるタクシーの待つ美濃戸口へと下山するだけ。アイスキャンディーの無い、むしろ不自然な赤岳鉱泉を横目に北沢ルートを下山する。
17名+2名のスタッフ計19名が北沢に掛かる15本目となる最後の橋を渡り切った時、戦いが始まった。
堰堤公園で待ち構えていたのは、そう、「アブの大群」
これまで全くいなかったアブ野郎どもが一斉に我々一隊に襲い掛かってきた。タクシーの運転手さんが言った言葉
「今年はアブが大発生している」
はっ、
今思えば警告?
と言わんばかりに、我々にアブが集まる、たかる。19名の人間それぞれに5匹、10匹、いいや、15匹とか、そういうレベルでブンブンブンブン。
お客様から漏れる小さな悲鳴。これはもう休憩どころではない。水分補給と塩分補給の30秒だけ立ち止まっただけで、ここからすぐに退散。アブの巣をつついたような騒ぎとなった堰堤公園から離れても、こいつらついてくる。仲間を呼び寄せるかのように増えてく。
これまでの2日間の山旅。天気はそれ程良くないながらも、お客様一人一人はこれまで半年以上の登山活動の成長を振り返り、次回初めて登る 北アルプス登山 へ思いを馳せていたであろう。そんな矢先の、アブ攻撃。
台無しだ。
奴らはしつこい。虫よけスプレーを服の上から2・3回シュッシュ←では全く効果なし。霧ではなく液体で虫よけ剤を手のひらに取り、それを肌に塗布する。霧では効果は出ない。液体だ。
それが今回の山行で思い知ったことである。
黒い服にはご用心
今回のお客様の中で、最もアブに好かれた方がいた。
写真左側のお客様。まるでランドネの雑誌から出てきたようなとてもおしゃれな方。上下共に黒系の服をお召しになっていた。アブの大群は全てのお客様を一通りまとわりついた後に、やがてこのお客様に集合するかのような状態になった。
本来パーティーの先頭はガイドが務めるものだが、この時はこのお客様とガイドがツートップ。堰堤公園から美濃戸口までの車が通れるほどの広い 車道を二人並列に歩きながら、ガイドの私が彼女にまとわりつく悪い虫を強靭なうちわで
叩き落す。
ダイソーのキャンプコーナーで販売されるオールプラスチックの緑のうちわ。卓球のラケットよりも二回り大きいうちわは焚火の火おこしの時だけでなく、アブの大群めがけて振り落とすことで複数のアブを同時に地面に叩きつける威力を持つサバイバルツールでもある。
このお客様にはある意味「おとり」の役目を果たしていただいた。アブの影が薄くなる赤岳山荘までの間、明らかに百を超えるアブを叩き落した。不思議な程に、全身黒づくめの一人のお客様にアブは集中していた。上着とズボンだけでなく、頭には黒い帽子。目には黒いサングラス。鼻と口元には黒いマスク。山の神付近をピークに少しずつアブが減っていき、他のお客様一人につき数匹のアブがたかっているとすれば、黒いお客様には優に10匹。堰堤公園から赤岳山荘までの間、それ程のアブが黒い服のお客様に集中していた。
登山者にとって致命的な天敵にスズメバチがいる。スズメバチは黒い服を着た人を襲う、というのは有名な話。しかしアブまでもが黒に反応するとは。下山後にネットで検索してみるとやはりそのような記事が存在していた。アブは黒と赤に集まると書かれている。
真夏にアブが大量発生する場所では、アブを寄せ付ける色の服はやめておいた方が良い。虫よけスプレーの効果でアブが皮膚を噛まないまでも、集中してアブにまとわりつかれることを考えれば、この日この山域だけでも明るい服を着て入山するのが無難。そう思った次第でした。
ちなみにおとり役となったこのお客様。強靭な胆力をお持ちで、アブにまとわりつかれたことをぜんぜん気にすることなくへっちゃらでした。なんとも素敵な方でした^^
旅行会社主催の登山ツアーで講師(ガイド)を務める「登山ガイド.net」管理人の 矢ケ崎 晶 です。
一年間に千人超のお客様と登山を楽しんでいます。その際、登山中に受けたご質問を中心に当サイトに記録して参ります。
これからも優しい丁寧なガイドを目指し究めます!