バリエーションルート

登山を続けていくとやがて耳にし、意識し始める地名「ジャンダルム」。Wikipediaによれば「 岩登り経験がある熟達者向けである」との記述が。登山技術・経験を高めるごとに悩ましくなる山の目標設定。いつかは点線ルート、いつかはバリエーションルート。そう考える方に、バリエーションルートについて説明をしたいと思います。

低山ハイキングから登山を始め、富士山、日本アルプスと高度、難易度を高めて行き、そして最後に行きつく目標の山に、槍ヶ岳、穂高岳、剱岳を目指される方も多いのではないでしょうか?これらの山に共通して言えることは、高度が高く森林限界を超え樹木も草も生えないないこと。数万年前の氷河時代に厚く堆積した雪が氷の層となり、山を削り続けてできあがった山容。
初めて目にしたときに思うことは、「日本とは思えない」。まるでヨーロッパの山岳地帯に迷い込んだような気分に浸れます。

奥穂高岳から望むジャンダルムの姿

◆バリエーションルートとは?

ずばり「一般ルート」ではない道です。
一般ルートとは多くの登山者が利用する「一般的」なルート。昭文社の山と高原地図に赤い線で、国土地理院の地形図でも道としてルートが示されています。一方バリエーションはこれらの地図には掲載されていないルートを指します。
西穂高岳と奥穂高岳を結ぶルートは山と高原地図では点線ルートとして示されています。危険を多くはらむ点線ルートもバリエーションルートと扱われることも多いです。
バリエーションルートは高山帯に限りません。群馬県の妙義山や山梨県の鋸岳などにも高難度の点線ルートが存在します。
もちろん1000m以下の低山にも。標高差があまりなく、日帰りでもチャレンジできるバリエーションルートのことを最近では「バリエーションハイキング」と呼ぶ向きもあります。今回バリエーションハイキングは別の機会とし、日本アルプスや八ヶ岳を中心とした国内の高所ルートを中心に説明したいと思います。

地図上には点線で示される西穂・奥穂縦走(ジャンダルム)の他、奥穂南稜、コブ尾根、前穂北尾根等多くのバリエーションルートが

◆バリエーションルートの特徴

バリエーションルートを目指す方には相応の技術・体力・経験を積んだ上で満を持して目指されることを強くお勧めします。一般ルートと違いバリエーションルートには多くのリスクがあります。
①登山者が少ない
②ルートが不明瞭
③滑落や墜落の危険
④落石の危険
⑤飲食の補給やいざという時に駆け込める山小屋がない
等があります。すぐにチャレンジしたい。その気持ちはしばらくの間胸に秘め、少しずつ難易度を高めステップアップを図ることをお勧めします。

雨天時の槍ヶ岳北鎌尾根。前にも後ろにも尾根上には誰一人いない状況では、自身のルートファインディング能力が試される。

◆バリエーションルートを目指す前に歩くべきルート

ここでは関東圏発、比較的情報を集めやすいメジャーな一般ルートの名称をご紹介します。
・八ヶ岳、硫黄岳~横岳~赤岳縦走
・八ヶ岳、権現岳~赤岳縦走(赤岳キレット)
・八峰キレット(鹿島槍ヶ岳~五竜岳)
・不帰キレット(唐松岳~白馬岳)
・大キレット(北穂高岳~南岳)

最低限、これらルートを縦走した上で西穂から奥穂縦走(ジャンダルム)を目指したい。
技術・体力・経験を易しい順に積み重ねることで、ムリの少ない成長が期待できる。複数の山行を繰り返すことで、できれば回避したい風雨、凍結等の悪コンディションでの山行経験を積むことができる。集大成のチャレンジ登山中にアクシデントの回避策が想定外・初経験と言うようなことが無いよう、やはり場数は重ねておきたいところです。
更には難易度を少しずつ高めて行くことで、毎回山行の充実感を味わえる、
という利点もあります。先に難易度の高いルートを経験してしまえば、簡単なルートを次に経験しても感動は少なかったりするからです。

北穂から南岳の中間点、大キレット。天気が良ければ楽しくても、荒天時は修行のように思えてしまう

◆西穂高岳~奥穂高岳縦走

登山を始め、着実に初級、中級、上級コースを不安なく歩けるようになり、上記の高難度ルートを全て経験できたら。次に目指すルートとして西穂奥穂縦走があります。

標準コースタイムは10時間。途中の鎖場や反対方向からのすれ違いの渋滞を考慮すればそれ以上の時間を要することも。

一般的な縦走スタイルは、西穂山荘(または穂高岳山荘)に前泊し、夜明けの一時間前に小屋を出発。ヘッドライトの光を頼りに稜線を歩き続けます。西穂山荘発であれば西穂独標で夜明けを迎え、ここからが大縦走の本番となります。
途中に小屋もトイレもありません。ザックの中にあるギアと食料、水分、そして自身の技術と体力だけが自分の命を支えます。

10時間のコースタイムでは途中天気の急変も多々あります。昼頃には飛騨側から霧が沸き上がり、稜線を超える高さに達すると岩場が水分でびっしょり濡れてきます。濡れた岩場をそれまでに経験しておかないと、かなりの恐怖を味わうことになります。
雷雲が発生して四方八方から雷鳴が響いたり、たとえ天候が良くても他の登山者が落とした落石がかすめたり、逆に自分が落とした落石が他の登山者をかすめたり直撃したり。
一般登山道では考えられないアクシデントが数多く経験できます。 何よりも10時間の山行は体力を求められます。8時間は標準コースタイム通りに歩けても、その後急激にペースが落ちることも。無補給で10時間分のルートを歩くとなれば、夏場なら3~5リットルの水分。他に非常食を加えれば3食分の食料も必要になります。更にはビバークの備えも。通常の日帰り登山より数キロから10キロ近くの重量が増えることとなり、その装備で最難関ルートを10時間歩行。相応の経験を積んだ上でチャレンジしたいものです。

西穂~奥穂縦走中の最難所、馬の背。ジャンダルムを容易に登れた猛者も、馬の背には苦戦する

◆ジャンダルム登頂

ジャンダルムに登頂すると天使が迎え入れてくれます。

3,163m ジャンダルム。金属で作られた天使のプレートがジャンダルム山頂で登山者を待ち続ける

◆ジャンダルム登頂後は?

不思議なことが起こります。
登山者として上級者を超え「熟達者」の称号を得た後に訪れる境地。

アルパイン初心者、アルパイン入門者。

ロープなしで登れる山はほぼ行き尽くし、これ以上の難度を求めるとなると。
次はロープワークを覚え、パートナーを見つけ、一緒に練習を重ね、アルパインクライミングのルートを目指すこととなります。
ロープを手にする頃にはすでにアイゼン、ピッケルも手に入れていることでしょう。夏も冬も四季を通じてアルパイン。
私の周囲を見渡せばそのような人ばかりです。そういう自分もその一人です。

【八ヶ岳】
・阿弥陀岳 北稜(積雪期中心)
・阿弥陀岳 南稜(ロープを用いる核心部を巻くこともできる)
・赤岳主稜(積雪期はダブルアックスが有利)

【穂高岳】
・明神岳主稜(穂高連邦の中でも不遇の存在。穂高コンプリートの最後の山)
・奥穂高岳南稜(上高地から穂高岳への最短ルート)
・北穂高岳東稜(通称ゴジラの背)
・前穂高岳北尾根(渋滞必至の人気ルート)

【槍ヶ岳】
・北鎌尾根(小説 孤高の人や風雪のビヴァークの舞台)

【剱岳】
・長次郎谷(右に八ツ峰、左に源次郎の尾根に囲まれた異空間)
・源次郎尾根(30mの懸垂下降が核心
・八ツ峰(上記の中で最も高難度のアルパイン初級卒業課題)

剱岳 長次郎谷 右俣。8月に入れば雪渓に深いクレヴァスが無数に出現。出現せず隠れたクレヴァスが登山者を待ち構えていたり。
剱岳 北方稜線 長次郎谷から稜線に詰めるとこのルートで頂上を目指す。写真左に丸い赤ペンキあり。その後は特にペンキ無し。ルート取りは自由
剱岳 源次郎尾根の核心 Ⅱ峰からの懸垂下降
厳冬期の阿弥陀岳北稜。天気は良くも風強し。

バリエーションルートを安全に快適に、短期間で登れるようになるノウハウを今後別稿でお伝えしたいと思います。

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