登山の歩き方~安全に快適に山に登る フラットフィッティング

登山教室の最初の講習でのカリキュラムはフラットフィッティングです。

また、単発の登山ツアーガイドで最初に聞かれる質問の多くは「山の歩き方」です。

登山は平地や街中のウォーキングと異なり滑りやすい。街中と同じ歩き方をしていると転びそうになったり極端に疲れることも。

登山の基本技術である山の歩き方。普段の歩き方と山での歩き方の違いは何なのか?その違いを易しく解説いたします。

フラットフィッティング

山を安全に快適に歩く方法に フラットフィッティング(flat fitting)、フラットフッティング(flat footing)、ベタ足 があります。いずれも同じ意味です。

※登山ガイド.net では「フラットフィッティング」に統一してガイドいたします。

フラットフィッティングとは、靴底のつま先部分とかかと部分を同時に地面に静かに着地、つま先とかかとを同時に地面から離す歩き方です。

私たちの日常で街を歩く時には

普段ってどんな風に歩いてるんだっけ?

  • 先ずかかと部分から着地し
  • 靴底の中央を接地し
  • 最後につま先部分を接地してから地面から離れる

このような歩き方をしています。
平坦な地面に対し、靴底を弓状にし、かかとからつま先までを転がすように接地し、最後につま先で地面を蹴り、次の一歩に繋げてます。

通常の歩き方。先に靴底(ソール)のかかと部分から接地する。特に下り坂ではこの瞬間に滑ることが多い。
通常の歩き方。次にソールのつま先部分を地面から離す時。登り坂ではこの瞬間に滑りやすい。

フラットフィッティングでは

つま先部分とかかと部分を『同時に』地面に接地

フラットフィッティングでの歩き方はこうです。

つま先部分 と かかと部分 を「同時に」地面に接地する


靴底(ソール)の全面を使用するので、ソールの凹凸すべてが地面に食い込み、スリップが減少します。

フラットフィッティングの分析

8枚の写真を動画化してみました。

街中の歩き方(滑りやすい山道ではNG)
フラットフィッティング

実際に山の中でフラットフィッティングで歩く場合、理屈通りにはいきません。

えっ?なんでだ??

地面の真上から真下に靴底を下すことはできないからです。
その場で足踏みするなら可能ですが、実際には前方に進まなければならないですから。

ここが「フラットフィッティングが良く分からない」という原因かもしれません

動画の比較

上記の動画を比較すると微妙な差があります。

①足の指の付け根付近の曲がり
②蹴りだす際の爪先からの土ぼこり

うん、微妙だ!
でもよく見ると確かに違いがある!

撮影に使った靴は 三季靴(三期靴)と呼ばれ、ソールは固くほとんど曲がらないものですが、実際に地面を蹴りだす瞬間に靴の甲の部分(アッパー)が若干ゆがんでいます。
靴の中で、足裏の爪先とかかと部分で、体重(重心)移動が起こっているからです。
その結果、かかと部分で着地し、体重を乗せた瞬間や、爪先部分で蹴り出す瞬間に滑りやすくなります。

一方、フラットフィッティングでは足裏の前後(爪先とかかと)の重心を変えずに接地し、地面から離しています。
着地の瞬間だけかかとから接地していますが、まだこの瞬間には地面に体重をかけていません)

登山に使う靴の靴底には、スニーカーと異なり深い溝が刻まれています。この溝は山道の大半を占める土や砂利、泥、岩などの路面に対し高いグリップ(摩擦)が得られる構造になっています。

フラットフィッティングとは?

この靴底のグリップを最大限に生かす歩き方こそが、フラットフィッティングです。
たとえ登り坂、下り坂であっても、かかとからつま先を同時に接地することで、靴底が地面にしっかり食い込み、スリップを防ぐことができるのです。

フラットフィッティングのメリット

スリップを減らすことで、ケガの防止だけでなく、足や身体の動きの無駄を減らすことができます。
スリップをしない経験を身体と頭で覚えることで、歩行中の不要な緊張や筋肉の力み(りきみ)を減らし、快適に歩き続けることができます。

山歩きに不慣れな人は、滑りやすい濡れた山道などを歩く時、必要以上にスピードを落としたり、ぎこちない動きをされます。一方で山歩きに慣れた方は、フラットフィッティングをうまく活用し、スリップを起こさない範囲で「大胆」に山道を登り降りされています。

雪山でも有効なフラットフィッティング

雪山では アイゼンを使用することがあります。アイゼンは登山靴に縛り付けることで靴底から鋭い鉄の爪で雪面を噛むように歩きます。この鉄の爪全てを雪や氷に差し込むことで高いグリップを得ることができます。

アイゼン歩行の基本もフラットフィッティング

無雪期の歩き方同様、つま先側の爪とかかと側の爪を同時に雪面に差し込み、同時に雪面から離す。一部の数本の爪が雪に刺さるよりも、全ての爪が雪や氷にがっちり刺さる方が、スリップを回避でき、より安全に歩くことが可能です。
アイゼンを用いた歩き方もまたフラットフィッティングでの歩き方が有効となります。

山歩きの基本であるフラットフィッティング。うまくフラットフィッティングで歩けるようになるには、「アイゼンをはめて歩いている」と思いながら、靴底の鉄の爪を山道にグサグサと差し込みながら歩く。そんなイメージで歩いてみてください。

この技術は将来雪山を歩く際にも大いに発揮されることになります。

フラットフィッティングで歩く時には、静かに靴底を接地させること

フラットフィッティングで歩く時は、靴底を地面に静かに「乗せて」歩いてください。
静かに歩くのは靴底のフリクショを最大限に活かすためです。乱暴にバタバタと音を立てて歩けば、せっかくのフリクションも台無しになります。静摩擦係数>動摩擦係数の関係です。


静かに歩くことで、スリップを減らすだけでなく、接地する時の衝撃が和らぎ、膝や腰への衝撃を緩和することができます。登り時は大丈夫でも下りの時に膝痛に悩まされる方も多いと思いますが、フラットフィッティングで静かに接地することを心がければ、膝や腰への負担を減らし、身体を温存することができます。

フラットフィッティングのもう一つのメリット=靴ズレが減る

フラットフィッティングで歩くと、靴の中での足の動き(ズレ)を減らすことができます。特に「アキレス腱部分が上下に擦れ続け、皮膚が赤くなったり水膨れができたり、といったトラブルを軽減することができます。
いわゆる靴擦れですね。

靴のサイズや形が合わないというのが最大の原因ですが、フラットフィッティングでの歩き方を習慣づければ安全かつ快適な登山に近づきます。

最後までお読みいただきありがとうございました!
お客様からの受ける質問のトップは「歩き方」。その答えがフラットフィッティングです。
登山ガイド.netの記事の中で最も読まれている記事が当ページです。
今後も写真や動画を用いたりして、さらにわかりやすい解説にしてまいります。

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