様々な懸垂下降~ATC、エイト環+バックアップ

懸垂下降(rappering)には数々の方法があります。技術を教わる組織・団体によりその方法は様々です。

最も良い方法は、クライマー本人が幾度も練習を重ね、何の迷いもなく安全な手順を繰り返すことができる方法です。

登山ガイド.netで標準的な方法として指導している懸垂下降の方法と、私がこれまで見てきた方法のいくつかを以下にご紹介します。

※懸垂下降ではプルジックロープなどを用いたバックアップを実施することが重要です。

管理人

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(1)PASとプルジックロープを用いた方法

ATCをビレイループに直接接続せず、PAS等を用いてビレイループから離れた場所でATCをロープにセットする方法です。

特長
・プルージックロープを用いたバックアップをATCの下に設置する
・ATCの下にバックアップがあっても干渉しない
・バックアップ側に過剰な荷重がかからない

メリット
・万一ロープを手放してもバックアップにより墜落を防ぐことができる。
・懸垂下降中、バックアップ側に荷重を移しても、バックアップを解除しやすい

デメリット:
・PASを必要とする
・手順や必要な機材が多く、他の方法に比べると時間を要する

必要機材
ATCPAS、プルージックロープ、安全環付きカラビナ2枚

手順
①ロープ2本をATCのロープスロットに差し込む
②安全環付きカラビナを開き、差し込んだロープをATCのケーブルごとカラビナに通す
③数あるPASのループの内、一番手前(ビレイループに近い)ループに②をセットし、 カラビナの安全環をロックする
④ATCの下にプルージックロープでバックアップを設置する。 マッシャー結びが一般的である。人によっては片手で結べるプルージック結びをする方もいる

準備、操作中の注意点
プルージックロープの巻き数は、メインロープの径により異なります。
登山用品店で切り売りしているエーデルワイス社製7mmロープを用いる方が多いですが、何巻きすれば最適かは、インドアジムなどで事前に確認をしておく必要があります。

◆巻き数を増やす場合
・ダブルロープなど、ロープ径の細いロープに巻く場合
・ドライロープや新品のロープなど、すべりの良いロープに巻く場合
◆巻き数を減らす場合
・シングルロープなどの太い径のロープに巻く場合
・クレムハイスト結びなど、結束力の強い結び方を使用する場合

所感
現在では最も一般的ともいえる懸垂下降のシステムといえます。ジムと違い、 ホンチャンでは懸垂下降中に停止することや、反射的にロープを手放すこともあり、バックアップが確実に効くことは当然ですが、バックアップの解除が容易であることも重要です。この両方を兼ね備えているのが当システムの最大のメリットです。

機材の代替品
ATC:ルベルソ(ペツル)等、チューブ型ビレイデバイス全般
PAS:デュアルコネクトアジャスト(ペツル)、120cmスリングに3個程結び目を作った手作りPAS、安全環付きカラビナ2枚を用いたクイックドロー
プルージックロープ:アラミドコードスリング(エーデルリッド)、シャント(ペツル)等

(2)PASを用いない方法

PASを用いず、ビレイループにATCをセットする方法です。旧来用いられていた方法ですが、最近ではPASの普及からか使用される方が減っているように思えます。特長はバックアップがATCよりも上に位置することです。

特長
・プルージックロープを用いたバックアップをATCの上に設置する
・バックアップが作動する際は全体重でプルージックロープに荷重がかかる
・バックアップの解除には相当な力が必要

メリット
・PASがなくても懸垂下降ができる
・ビレイをする時と手順が近い(ビレイループにATCを設置する)

デメリット:
・バックアップが効きすぎる。バックアップ解除が困難になることもある

必要機材
ATC、プルージックロープ、安全環付きカラビナ2枚

手順
①ロープ2本をATCのロープスロットに差し込む
②安全環付きカラビナを開き、差し込んだロープをATCのケーブルごとカラビナに通す
③②をビレイループにセットしカラビナの安全環をロックする
④ATCのにプルージックロープでバックアップを巻き、ビレイループにセットしカラビナの安全環をロックする

準備、操作中の注意点
バックアップに荷重がかかった時の事を想定してバックアップをセットします。バックアップが効くことは当然必要ですが、バックアップを解除しやすい結び方、巻き数を選ぶ必要もあります。
特に、バックアップ側に全体重を預けてしまうと、プルージックロープがメインロープに強固に結束してしまい、懸垂下降中にバックアップを解除することが困難にあることがあります。特に空中懸垂の時は大きなトラブルに発展することもあります。

◆バックアップの解除をしやすくするために
・クレムハイスト結び(上記写真)ではなくマッシャー結びを用いる
・巻き数を減らす
・バックアップ解除時にATCをたくし上げ(登り返しを行う)、プルージックロープ側の荷重を減らす
・万が一の為にプルージックロープ切断の為のナイフを取り出しやすい場所に身に着けておく(ヘルメットやザックのショルダーハーネスなど)

※いざという時にバックアップが効かなければ元も子もありません。必ずバックアップが効く範囲内での調整をしてください。そのためにはホンチャンで実施する前に平地やインドアクライミングジムで、使用するロープに適した結び方、巻き数を十分に検証してください。

所感
PASを使用しない方にこのシステムで懸垂下降をする姿を見かけます。
最大のデメリットはバックアップ解除が困難なことです。ロープダウンしたロープが灌木に絡まったり、突発的なアクシデントでバックアップ側に荷重を移してしまうと解除が困難になります。メインロープやプルージックロープ径の差にもよりますが、屈強な男性であっても解除ができないこともあります。
そのことを事前に安全な場所でリハーサルをしておき、トラブル時の解除方法を身に着けておく必要があります。

(3)エイト環を用いる方法

ATCを用いず、エイト環(Figure 8 belay device)を用いての懸垂下降です。短時間でセットし、解除できる点でATCを用いる方法より秀でていると言えます。また懸垂下降中の仮固定も容易です。
沢登り等、頻繁に懸垂下降を行う山行で用いられています。

特長・メリット
・ATCよりも短時間で懸垂下降を開始でき、解除することができる
・より少ない装備で懸垂下降が可能

デメリット:
・プルージックロープを用いたバックアップがないため、落石回避等 咄嗟の動作でロープを手放した際、墜落リスクが非常に高い
・エイト環を使用することでロープが キンクしやすい

必要機材
・エイト環、安全環付きカラビナ1枚

手順
①ロープ2本をエイト環の大リングに差し込み、小リング側の末端の裏側に掛ける
②小リングに安全環付きカラビナを掛け、ビレイループにセットしカラビナの安全環をロックする

準備、操作中の注意点
バックアップがないため、懸垂下降中に手を離したら墜落し、重大な事故を引き起こします。

◆墜落を防ぐために
・ロープを絶対に手放さないこと
・とはいえ、足元のスリップ・身体の急速な反転などが生じれば、理性を超えた反射神経によりロープを手放すことがあります。
・安全率を高めるうえでも、プルージックロープを用いたバックアップを組合わせての懸垂下降をお勧めします。

所感
時間短縮という点で大きな魅力を持つエイト環ですが、反射的に手を放すようなアクシデントが生じれば危険性が高いと言えます。
クライマーの熟練度、リスク許容度に応じて採用いただければと考えます。

ある山岳会では「利き手ではロープを持たない」というルールを徹底しています。反射的に手を出すのは利き手。右利きのクライマーはロープを左手で持つ。アクシデント発生の際、咄嗟に手が出るのはロープを持たない手。
このようなルールを徹底している山岳会もあります。

(4)エイト環にバックアップを用いた方法

上記のデメリットを補った、プルージックロープによるバックアップを用いた方法です。

特長・メリット
・バックアップをセットしても、ATCよりは短時間で懸垂下降を開始でき、解除することができる
・仮固定も短時間でできる
・大型のエイト環を用いれば、ロープの結び目通過が容易

デメリット:
・エイト環の手軽さ、迅速さが相殺される
・バックアップが効きすぎ、解除が困難になることも
・エイト環を使用することでロープが キンクしやすい

必要機材
・エイト環、プルージックロープ、安全環付きカラビナ2枚

手順
①ロープ2本をエイト環の大リングに差し込み、小リング側の末端の裏側に掛ける
②小リングに安全環付きカラビナを掛け、ビレイループにセットしカラビナの安全環をロックする
③ATCの上にプルージックロープでバックアップを設置する

準備、操作中の注意点
(2)の注意点に準じます

所感
バックアップを準備する時間を考慮してもエイト環の持つ時間短縮という点ではメリットが残ります。
沢登りなどの頻繁な懸垂下降を行う際に、より安全度を確保する上でパックアップを用いるこの方法をお勧めします。
特に初心者に対しては積極的にバックアップを確保するよう指導をお願いします。

岩場やバリエーションルート、沢で出会うクライマーが懸垂下降をする際、様々な型を見ることができます。
安全が確保されていればどれも正解。その場で突然やり方を変えることはお勧めできません。
ただ、ロープの 末端処理とバックアップは絶対必要です。

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